数日後、ハチの巣を見に行った。
ものの見事に剥ぎ取られている。
どうやって巣をはぎとったのだろうか。
そんな風に考える内に、後悔の念にかられた。
このスズメバチの巣を独占する権利は私には無い。
ハチ採りおじさんよりも、一足早く、巣の所へ行ったにもかかわらず、
巣を採る事は危険だと判断して引き返したのだから、
ハチ捕りおじさんに巣を採られても、文句は言えない。
北海道にハチの巣を採る技術を持った人は少ない。
もし、あの時に、ハチ捕りおじさんに頭を下げて、
ハチの巣を採るところを見せてもらえば、勉強になった事だろう。
俺って、なんて青いんだ!
自分の未熟さを痛感した。
気を取り直して、巣があった木の前に立った。
指で巣の長さを測ると40数センチあった。
よくみると木に洞(うろ)があって、その中にまだ巣が残っているようだ。
しかも、巣穴まである。
とその時だ。
巣穴から一頭のハチが出てきた。
驚いて、巣から3メートル離れた所に移動した。
なんと、残った巣の中でハチ達が活動しているのだ。
おそらく、最初は洞の中で巣を作り、そのうち木の外側にまで膨張したのだろう。
剥ぎ取った跡を良く見ると、木の外側の巣は、何層もの外皮の跡が見えた。
つまり、巣の本体である育房などは洞の中にあり、木の外側は
保温のための外皮が重なったものに過ぎなかったのであろう。
なぜ、ハチ捕りおじさんが洞の中の巣を残したのか不思議だ。
幼虫を採る事が目的ではなく、巣の標本が欲しかったのかもしれない。
あるいは、襲われそうになって、途中で止めたのだろうか。
今となっては、想像するしか他に方法は無い。
若気の至りであった。